シンガポールの分離

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前述の通り、本来シンガポールはマレーシア連邦に加入するはずでしたが、マレー人優遇政策を嫌ったシンガポールに住む中国人の暴動で連邦から追放された形となりました。現在のシンガポールは中国人が主導する事実上一党独裁体制でマレーシアにも勝る強権的都市国家です。大戦中にシンガポールの中国人は日本軍に対して徹底抗戦を貫き、日本軍に数千人から2万人の中国系住民が殺されたために現在でも反日感情は大変根深いと言えます。その一方でマレーシアは日本軍がマレー人を優遇したことで独立の足掛かりを得ているために大変親日的です。そんなシンガポールが今年、一人当たりのGDPが35,000ドルを超え日本を追い越したことは私たちに衝撃を与えました。シンガポールはマレーシアと同様にイギリス連邦であり、この両国は一見感情的な対立が絶えないようでありながらも協力関係を築いています。経済的にはマレーシアの名目GDP総額が2,214億ドルで一人当たりのGDPは8千ドル(約80万円)であるのに対して、シンガポールの名目GDP総額は1,819億ドル、一人当たりのGDPは39,000ドル(約390万円)と現在アジアでトップの先進国です。(日本の一人当たりのGDPは340万円です。)

この両国が補完関係にあることで特に効果を挙げているのが観光産業です。マレーシアの外国人観光客は年間で2,088万人でその内日本人観光客が37万人(2007年度)、シンガポールの外国人観光客は年間で800万人でその内日本人観光客が59万人です。ちなみに日本の外国人観光客はほぽシンガポールと同じ833万人ですが、シンガポールの国土の面積は東京の23区程度です。このマレーシアのクアラルンプールとシンガポールはマレー鉄道で8時間で行き来でき、料金も寝台で1,200円程度です。さらにマレーシアに進出している日本企業は1,427社、日本人滞在者は9,330人、一方シンガポールは日本企業が2,900社、日本人滞在者は2万3,583人に上ります(2008年)。つまりマレー半島だけで日本企業は4,000社を超えている訳で、さらにこれを日本企業1,300社、日本人観光客が125万人のタイと比べると、マレーシアとシンガポールの2国は日本人にとって観光以上にむしろビジネスの環境が整っていると言えるでしょう。

以上の通りマレーシアはビジネスに於いて非常に日本企業の活動が活発ですが、他のアジア地域と比べると国際結婚の数は低く留まっています。親日国とは言えイスラム共同体であるためにやはり異教徒である私たちとの個人間の交流は難しいようです。そうは言っても日本の国費(税金)で賄っている文化交流、留学生の交流などは非常に盛んで概して国家間は良好です。
気をつけるべきなのは、例え彼らの平均年収が80万円程度だとしてもマレーシアの物価が3分の1以下ですから、生活のレベルが私たちよりも劣る訳ではありません。治安も良く教育水準も大変に高く、タイの私立大学生がマレーシアに留学しているのを良く見かけます。その上イスラーム共同体の中でもマレーシアは最も成功した国家の一つで高いプライドを持っています。かつて、マハティールは「マレージレンマ」という本の中でマレーシアは国内に民族問題を抱えているため国家の運営が極めて難しいと訴えましたが、こうした今日の成功はマレーシアが多民族国家であったことと無関係では有りません。具体的にはマレーシアはイスラーム共同体であるが故にアラブから資本が流れています。また、経済を中国人が握っているために中国資本を招き、イギリス連邦の一員で多くのインド人を抱えているために西洋のみならずインドからも資本を得て、ハイテクなどの先端技術を国内に移植することに成功しています。これらがバランスを欠いたり、極端なマレー人の民族主義に傾いた場合、現在のインドネシアに見られる東南アジアの強権的政権は中国共産党の影響を受け、独裁の政治的手段として社会主義へ移行し、経済は破綻します。一方で中国人の支配に任せておけば、同様に中国共産党の影響を受けるか、そうでなくても現在のイスラム共同体からの支援はなくなり、マレーシアの民族間の経済格差は今以上に開きます。このように考えると現在のマレーシアという国家がいかにこれからのグローバル社会に対して日本以上のポテンシャルを秘めていて、ともすれば日本以上に完成された社会であると気付くでしょう。またこのことは20年の長きに渡り政治が停滞してした日本と比べ、この国の政治家たちが強権的だと揶揄されながらも常に絶え間なく国家を運営してきたことを表しています。

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